中学時代のマラソン大会の話である。
校内マラソン大会は年に5回あったが、私にとっては”苦痛”以外のなにものでもなかった。
・・・あの日までは。
バスケ部だった私は体力もそこそこあったので毎回上位には入っていたのだが
どうしても勝てない相手がいた。
(彼女はまさに男子のような体力の持ち主で、
女子の体力テストでは100回すれば10点満点の”斜め懸垂”を200回もラクラク、
業を煮やした先生に途中で強制的にやめさせられるようなツワモノだった。)
彼女に勝ちたいという欲もなかった私だが、勝てるチャンスがあったのならば、
唯一あの時だったのかもしれない。
(いま思えば。)
それは、2年生最後のマラソン大会だ。
全長たった3.5キロのたんぼ道、ラスト1.5キロくらいだったと思う。
私は味わってしまった。
あの快感を!
それまでの苦しい、やめたい、倒れたい、その思いがさらっと消え、
はずむ足取り、
先にスタートしていた男子を横目に
ひょーいひょーいと追い抜ける軽さ、
蒼く晴れ渡った空の色、
あぁ青春、さわやかな汗のにおい。
だがそれは
長くは続かなかった。
時間にして3分もなかったのではないかと推測される。
(いま思えば。)
重ーーくなった足。
ついにはラスト200メートルで例の彼女にかわされ、
私はまた2位に終わった。
これが”ランナーズハイ”という現象なのだと知ったのは
ずっと後の話になる。
”ランナーズハイ”という現象については、未だにすべては解明されていない模様。
wikiによれば、
マラソンなどで長時間走り続けると気分が高揚してくる作用。エンドルフィンの項を参照のこと。
エンドルフィン(endorphin)は、脳内で機能する神経伝達物質のひとつである。
内在性オピオイドであり、モルヒネ同様の作用を示す。特に、脳内の報酬系に多く分布する。内在性鎮痛系にかかわり、また多幸感をもたらすと考えられている。そのため脳内麻薬と呼ばれることもある。
マラソンなどで長時間走り続けると気分が高揚してくる作用「ランナーズハイ」は、エンドルフィンの分泌によるものとの説がある。二人以上で走ると効果が高い。また、性行為をすると、β-エンドルフィンが分泌される。β-エンドルフィンには鎮痛作用がある。
だそーな。
いま私は
あの、このままどこまでも走っていけそうな軽やかな感覚を
肌にあたる風の心地よさと動物のような疾走感を
なんとかもう一度味わえないものかと願いながら
重い体を揺らし走っている。
歩くくらいのスピードで。
イシイ